穏やかな風が、太陽の光を受けて輝く木の葉を揺らし、もうすぐ秋が来ることを告げている。

太陽はまだ夏気分、ぎらぎらと照りつけている。




ファースト・ラブ・ハプニング
              〜恋愛事件、勃発!?〜






「はー・・・。」

世界一うるさい家族賞にノミネートされ、最有力候補となっている茶川家の中に、

マリアナ海溝よりも深く、ウルトラマンファミリーの全員の体重よりも重いため息が響いた。

・・・っていうかこんな表現いる?いらなくね?長いじゃん。あーもうこれで労力の無駄だよ。


「どーしたたにこ。ばばくせぇ。そんなため息ついたらブスになるぜ。

・・あ、ごめん。『もっと』ブスになるぜ。」

「うるせぇよ!どーせあたしゃぶすだよ!」

「たにこ、可愛い女性っつーのはな、そんなこと言わねーの。」

「あーもう黙って。黙れ。黙ろう。黙らないの?」

・・・張本人、たにこはなんだか不機嫌だ。

悩みでもあるのだろうか。

え、あのたにこが?


「うるせぇ語り手のばばぁ!!」

ばばぁってなんだ、てめーと一才しか違わねーんだよ!!

「いいだろあたし永遠の13歳なんだよ!」

あたしが大人になってもてめーは永遠にガキのまんまだろ。

「はん、てめえは将来豚みたいに太ってしわくちゃのばばあになって生涯独身のまま死んでいくんだろ!

あたしはてめえが死んでも永遠に生き続けるんだよ!

ほら、深空死すともたにこは死せずって言うだろ!」

言わねぇよ!何勝手に言葉作ってんの!?だいたい・・・・




「・・・たにこ、誰と話してんだ?」

「・・・はっ。ごめん、なんでもない。幻聴だった。」

・・・こほん。失敬。

たにこはソファーに自分の身を沈め、またため息をついた。



「おいおい、お前疲れてんだろ。寝とけ。」

めずらしくさとしが優しい。

「兄貴・・・・。」

「で、一生起きるな。」

「兄貴・・・・。」

文字では表現しづらいが、

一回目の「兄貴・・・・。」と、2回目の「兄貴・・・・。」では殺意の差が全く違った。









「たっだいまーvv」

「帰ってきてやったわよー。」

「何でえらそうに。」

まき姫がどたどたとリビングに入ってきて、

「たにこ、撮ってきたよーv」

といいながら、スーパーの袋をガサリと見せた。



「え、何撮ったんだ?」

「実はたにこ・・・。」

「わぁぁぁー!!!言うなー!!!!」

「うるせぇよ。もか姐、こいつ押さえて。」

「ラジャアーvv」

「うわ、やめっ、やmもがっ!!」

口に猿轡を突っ込まれたたにこは、必死にまき姫の言葉を遮ろうとしていた。





























「実はたにこ・・・・・。







恋してるのv」




















・・・。



・・・。













「「「「「「ええ――――――――――――――――――――!?」」」」」」」














あの迷惑な騒音のおばちゃんもびっくりの大声が、辺りに響き渡った。

それでも苦情が来ないのは、

みほばあの・・・・これ(OKサインを下向けにして)で解決しているからだった。

・・・最近は、もかの恐喝という手もあったりなかったり。







「なぁ、うそお!?てめぇが!?おもれー!!」

「おもれえって何じゃい!だから兄貴に言うのがいやだったんだよ!」

「まぁ・・・たにこ、アナタもそんなお年頃なのねv」

「黙ればばあ。」

「もしかして初恋?キャアー、私も初恋といったら近所の結人くんと・・・・キャアアアvv」

「(無視)」

「あら、よしおさんはどう思う?娘の恋!」

「いやー、たにこが好きになった男って、想像もつかないし・・・・。」

「なにそれお父さん!?」

もっともなことを言うよしおだった。





「HAHAHA!!!こりゃあ面白いネェーvv

あたし、たにこ応援してるよお!」

「ありがともかさん・・・。」

「片思いなら、拳銃貸してあげるv

『あたしと付き合わねぇとそこらじゅうに脳天ぶちまけることになるわよ』で一発ネェーvv」

「やめよう、もかさん。うん、やめよう。

私そんな2時間サスペンスみたいにドロドロした恋愛したくない。」

「まぁ・・・・たにこが・・・・。鯉を釣ったのかい?逃がしておやりなさい。」

「みさばぁ・・・・・ま、いっか。」

「ポン・・・・ポンポンポポン・・・ポン。(恋か・・・・わしもばあさんと・・・むふっ)」














「で、誰が好きなんだ?」

「えっとねぇ、・・・」

「わああああああ!言うなー!!!むぐっ」

本日2回目の猿轡をされるたにこだった。
















「サッカー部の1年の黒川智春!」

「サッカー部?どんなやつ?」

「たにこより背が少し高くてね、かっこよくてね、すんごく優しいんだよー。」

「へえー・・・。」

「で、どんな感じなんだ、たにこと黒川。」













「・・・それが・・・・・。」











夏休み真っ只中、たにこはテストの点がむちゃくちゃ悪かったので補習に行っていた。


たにこは補習が終わって、先生に命令され、むちゃくちゃ重い荷物を抱えて、3階まで持っていこうとしていた。


「重・・・なんだあの先公・・・。自分がチビだからってでけえ荷物でけえあたしに持たせやがって・・・・。」

愚痴を言うたにこ。













「・・・・たにこ?」

「え?  !!」

後ろに、たにこがフォーリンラブ(寒 な黒川智春くんが立っていた。



「くっ・・・黒川・・・・。」

「こんな重たそうな荷物、一人で持っていくの?持ってやろうか。」



どきどき、高鳴るたにこの心臓。








そして。



















「うるせえ、ほっとけ!!!てめえなんざの力借りんでもあたし一人で持っていけるわ!!

何人見下してんだよ!

てめぇは後ろで大人しく明日に向かって生きときゃいいんだよ!!!!」







たにこは大声で黒川智春君(以下智 だってめんどいじゃん

を怒鳴りつけ、どっしどっしと階段を駆け上がってしまった。











・・・そして、3階まで来た所で。





「やっだー・・・もう、どうしてあたし、素直になれないの!?

また強がっちゃったー。」



・・・素直になれないたにこである。

強がるのはいい・・・っていうかよくないが、

その強がり方はなんだ。

大人しく明日に向かって生きるってなんだ。














・・・・。改装終了。










「ぎゃはははははは!!!!何それ!おもろ!

俺初めてこいつの兄でよかった!!ははははは!!!」

「この・・・兄貴め・・・・。」

「わかるわー、その気持ち。私もよしおさんの前では素直になれなくて・・・・。」

「てめぇなんかに同情されたくはねえよ。」

「ひどっ!ひどいわたにこ!!」

「泣くな、お袋。今は笑うところだぞ。」

「笑うところじゃねーよ!!人が真剣に悩んでいるのに!」

「どーでもいいですけど、たにこはどこが好きなのですカー?」








するとたにこは両手で頬を押さえ、スピードワゴンのおざーさんの甘いセリフのごとく、

甘ったるい声を上げていた。







「えぇーvvええーっとぉ、あたしに優しくてぇーvv

かっこよくてぇーvvvvんー・・・・全部ーvvvvvv」









「・・・・何こいつ?これ本当にたにこ?」

「あははははははははっはははっは!!!」

まき姫はバカウケしている。








「で、何撮って来たの?」

「じゃじゃじゃーん!」

まき姫はスーパーの袋から、小さな黒い立方体状のものを取り出した。

それは、現在私が使っている消しゴムサイズで、かなり小さい(わかんねーよ





「何これ・・・。」

「隠しカメラvみほばあが買ってくれたんだよ!

もかさんが見つけて・・・・。」

「もかさんが?」

「YE━━━━━━━━━━━S!その通りデース。

政府機関のスパイ道具の中で、一番高価なカメラでね、マフィア達にひっぱりだこなのよーvv」

「(何それー!?)」

「へー、すげえなもか姐。」

「かなり高かったけど、すごい機能が搭載されてるのかしら?」

「うん、すっごく高画質でネェ!」

「(みんなつっこめよ!!)」


そのとき、ポンとよしおがたにこの肩を叩いた。

静かに首を振る。

まるで、関わらなくてもいいとでも言いたげに。








「でね!これ使って智がたにこのことをどう思っているか調べたんだ!」

「へー。」

「まきが智に聞いて、智の反応をみたの。その時の映像がこちら。」


・・・ていうか、まき姫が聞いたんなら、カメラなんていらねぇだろ。







ウィーン・・・・。


パッ。












『あ、智ー。どしたのー?』

セーラー服のまき姫が画面に映った。

『補習ー。まき姫もー?』

智が現れた。

『ううんー。あたしはちょっと遊びに来たー。』


「・・・なんで語尾のびてんの?」

「・・・雰囲気?」

「聞くな。」

「へー、かっこいいじゃん。」

「優しそう!」

「っつーか何でこいつまき姫って呼んでんの?」

「ほら、茶川ってもう一人いたじゃん。たにこが。

だからみんな下の名前で呼んでんだよ。」

「あー、そっか。たにこ忘れてた。」

「何忘れてんだよ。この話あたしがメインなんだよ。

メイン忘れてどーするの。」






『ねぇ、智。好きな子いる?』

まき姫が智に聞く。

『えー・・・うーん・・・・』

『いるんだ?』

『よくわかんねぇ。好きかどうか。』

『えーじゃあ、女の子についてどう思ってる?たとえば、赤本さん。』

『赤本?あんまり好きじゃない。暗いのは苦手なんだ。』











「たにこよかったじゃん。ハイテンションで。」

「それって褒めてる?」









『じゃあよーこちゃん。』

『うーん、俺小さい女の子はあんまり・・・。俺、背が高いからさ。妹みたいに見える。』















「たにこよかったじゃん。デカくて。」

「褒めてんの?」











『じゃあ、森川さんは?』

『うーん、がり勉じゃん?頭いいのって、苦手。勉強第一って感じでさ。

バカを見下してそうじゃね?』












「たにこよかったじゃん。バカで。」

「褒めてねーだろ?そーだろ?」











『じゃあーたにこは?』

『たにこ?』

『うん。』









どきどき、たにこは食い入るように画面を見つめる。

















『俺のこと、なんか嫌いっぽさそう。

この前俺たにこに声かけたら、大人しく明日に向かって生きろって言われたんだー。

俺うるせぇやつだから大人しくしてられねーの』















「・・・論点ずれてない?」

「智はね、天然ボケなんだよ。」













『嫌いか好きかっていったら、好きに入ると思う。

でも、あっちは俺のこと、嫌ってるからね・・・・・。

でもさ・・・・』











たにこは、かなりショックを受けていた。

ああもうあたしやっていけれんわ、

誰かたすけて

と、掠れた声を上げている。










「たにこ、元気出して。まだ智何か言いたそうだよ。」

「あーもうだめえーあたしの人生やっていけれんー

神様仏様お客様ー。お客様の中で大谷さんはいらっしゃいますでしょーかー・・・」

「・・・相当ショックだね。こりゃ。」

「誰だよ大谷さんって。何だよお客様って。」

「てめぇが素直になれねぇのが悪い。」

「素直になっとけば両思いだったかもね。」

「このまま二人は誤解の解けないまま愛を引き裂かれてゆく・・・」

「おお、のおおおー!!!こうなる前に銃で一発脅しとくべきですネェ!」

「今日のご飯は肉じゃがにしときましょうか。」

「ポン、ポポポン!ポン!(おお、肉じゃが大好き!ばあさんvv)」





















『でもさ、たにこっておもしろいよなー。』


























画面に映るのは、智の太陽のように眩しい、輝く笑顔。























「くっ・・・黒川・・・・・・」(きゅーん)

「よかったね、たにこ!」(たにこの背中をバンバン叩いて)

「あぁ、青春だわー・・・。」(乙女モード全開)

「んまー、たにこ、これからよ、ね、よしおさん!」(よしおを見て)

「え・・・??」(なんで僕なの、と言いたげに)

「肉じゃがとー・・・鮭のムニエルでもしましょうかねー・・・。」(場違い)

「ポンポンポ!?(ムニエル!?)」(魚嫌い)

「「・・・・・ちっ」」(どうやらこの展開がおもしろくなかったらしい)


















「でさ、たにこ!智、もうすぐ誕生日なんだって!」

「え、そうなんだ!」

「じゃあなんかプレゼントしたら?」

「いいわね!」

















とりあえず、一件落着・・・・?



















じゃないんだな、これが。

というわけでNext。

















アトガキ

続きます。次は、たにこが智に誕生日プレゼントを!

あー楽しかった。たにこがメインなのにたにこめちゃくちゃにされてるから。