「じゃあ、行ってくるぜ!ご●せん、撮っといてくれよ。」

照りつける日差し、澄んだ青い空によく似合う眩しい笑顔で、さとしは家を出た。

「いってらっしゃい。」

藍色の美しいネッチカーフを方にかけたみさばあは、優しい笑顔でさとしを見送った。





レッツ プレイ サッカー トゥギャザー!




今日は土曜日、高校サッカーの地域大会がある。

さとしが通う灰銅学園ももちろん、この大会に出場するのだ。

高校1年生にしてエースストライカーのさとしも、今日はいつになく張り切っていた。




「さぁ、皆起きて。さとしの応援に行きましょう。」

5時半におき、さとしの弁当やら朝ご飯やらを作ったみさばあは、みんなを起こしに行った。

まめな男・別名苦労人のよしおが、通勤する会社は、今日は珍しく休みだ。

「お母さん、皆で行くのか?」

「えぇ、ポン太郎も一緒に。」

この言葉に、5時半きっかりに鳴いて、少しうとうとしていたポン太郎の眠気が一気に覚めた。


「ポン!ポンポポーン!(ありがとう、おばあさん!)

ポッポンポンポンポポポンポ・・・・ ポギャ!?(やっぱりおばあさんは優しいのお・・・うぎゃ!?)」


むぎゅ、という効果音とともに、まき姫がやってきた。

「おっはよー!!おじさん、みさばあ!!ポン太郎!!・・・・って、あれ?ポン太郎、どこ?」

よしおは何も言わず、まき姫の足元を指差した。




ハッとするまき姫。


潰れているポン太郎。





「あわわわわわわわわ!?ご、ご、ごめーんポン太郎!!」

「ポン・・・ポンポン・・・(まきちゃん・・・ ちょっと太ったのぉ・・・」


みさばあは、よしよしとポン太郎の頭を撫でてやった。

・・・ちなみに、まき姫がポン太郎を踏んづけるのは、一回目ではない。





「あぁ、高校サッカーですって。素敵。」

みほばあは、とろんと甘ったるい声で目を輝かせてリビングに入ってきた。

朝早くからmy worldに入り込んでいる。

「あぁ、今日こそ素敵な王子様が・・・。」

「年、46歳程違いますよ。」

よしおは、遠慮がちにつっ込んだ。



「そして私が、さとしくんを応援している姿を見て、一目ぼれしちゃうの。

『あの、お嬢さん、お名前はなんとおっしゃるのですか?』『ちゃ・・・・茶川みほです。』

『あぁ・・・茶川さん。いいえ、みほさん。僕はアナタを一目見て好きになりました。どうか、付き合ってください。』


キャーっ、やっだー!!田村くんってばー!!一目ぼれだなんてぇぇ!!」


みほばあは、よしおの言葉など完全に無視し、乙女の夢(妄想)にどっぷり浸かり込んでいた。




「お兄ちゃんの試合に行くぞ――――――!!!」

近所迷惑で異様なハイテンションで叫んだのはたにこだった。

「まき姫ぇ!!今日も、あの出来損ないのお袋、起こしに行きますかー!!」

「イエッサー、隊長vv」

2人はドタドタとよしこの部屋へ向かった。



「こらー!!起きんかいー!!」

「さとしの試合だよ、おばさん!」

たにこは荒々しく、まき姫もドカドカとよしこを起こしにかかった。




「あっ・・・・、さとし・・・・!嫌だ・・、ダメっ!!さ、刺されちゃう・・・!!


あぁあ!!・・・・ち、血がっ・・・・!!だ、誰か、 誰か、助けてー!!」


たにことまき姫はギョッとした。

よしこの夢の中では、さとしが刺されてしまったのだ。

これが、正夢になったらどうしよう、何か悪いことが起こる前触れじゃないのか・・・

そんな不安が、ぐらぐらと沸き立つ。



・・・が。




「あぁ―――――!!・・・さ、さ、さとしが・・・・






か、か、蚊に刺された―――――――!!」






「蚊かよ!!」

たにことまき姫は同時に蹴りを入れた。









「さーて、昼食用にお弁当をつくりましょう。」

みさばあは、白いエプロンをつけて、キッチンに立った。

「「「「「はーい。」」」」」


するとまきが、

「まきね、まきね、ポテトサラダ作るー!!」

と笑顔で言った。

「いいわね。じゃあ私はサンドイッチを作るわね。」

とたにこ。

「王子様をGETするには、から揚げね・・・!」

とみほばあ。

「それじゃあ、おばあちゃんはデザートでも作りましょうか。」

とみさばあ。

「じゃあ、私はたこさんウィンナーでも。」

と、よしこ。





この言葉に、みさばあを除く家族全員が振り向いた。





「え?たこさん嫌い?」

「や、や、やめろー!!!」

「じゃあ、カニさんで・・・。」

「そういう問題じゃねー!!」

「まかせてよ、たにこ。」

「やだやだ!!」

「もう!お母さんの言うことが聞けないの!?」

「聞けるかー!!それだけは絶対聞けーん!!!」





・・・よしこは、洗濯をすれば洗剤の量を間違え、皿を洗えば平気で数枚割り、

掃除機を使えば必要なものまで吸い込んでしまうという、家事能力0というか、マイナスがつくくらいの強者であった。

そんなよしこが、料理などできるわけがないのだ。

前に、自信作だといって、サンマにシチューをかけて、油で揚げたものには、

家族全員が白旗を振った程なのだ。



「やだー!!私に任せてったらー!!うわーーん!」

「アンタそれでも母親かー!!」

「いいじゃないか、たにこ。たこさんウィンナーかい?可愛いじゃないか。」

事の重大さを知らないみさばあは、すんなりと言ってしまった。


「み、みさばあ!?」

「わー、義母様、ありがとう!」

「「「「「・・・・・・・;」」」」」」




・・・ドカーン!!

「やっだー、焦げちゃった。てへ。」

「てへじゃねー!!!」

よしこの鍋から、メラメラと炎が燃え上がっている。

「おばさん、火、火!!火、切って!!」

「こ、焦げ臭ー・・・」

「キャー!!」

「で、味付けはケチャップとマヨネーズと塩と醤油と砂糖と味噌と・・・。」

「ギャー!!やめれー!!」





・・・・・・お食事中の方、すみません(いるのか



結局、よしこはデザートのマドレーヌの生地を、型に流し込んだだけだった。






弁当作りが終わって、グラウンドに向かった。

グラウンドには、灰銅の制服を着た女子や、チームメイトの家族の姿があった。

「フレー、フレー、灰銅!」

「いっけー、負けるな!!」

「シュート!!」

「キャー、茶川君ー!」




「あ、さとしだよ!」

まき姫は、グラウンドで一番目立っているさとしを見つけた。




「茶川!」

「皆森、パス!」

さとしは、皆森よーたくんからパスをもらった。

ドリブルで敵をかわし、皆森くんにバックパスする。

皆森君は敵をすっとよけ、ドリブルしながら前へ上がる。

そして、シュート!

・・・・

じゃなくて、皆森君はゴール前でさとしにパスをした。


ドコォ!!

さとしの弾丸シュートが、ゴールネットを揺らした。



ピピー!!



この試合、さとしや皆森君の大活躍のおかげで、灰銅学園が勝者となった。

さとしは、皆森君と肩を叩き合っていた。





「へーえ。お兄ちゃんって案外もてるんだ。」

たにこは、軽く小石を蹴った。

「まぁ、私もモデル体型で女優ばりの美人だからモッテモテなのよ〜。

あぁ、モテるって辛い!」

「えぇ、そうなんだ!まき、全然モテないから・・・いいな。」


そんなことを言って、毎日ラブレターと知らずに、手紙を何通ももらっているまき姫を、家族は知っている。




「さーとしー!!」

よしこは、さとしを大声で呼んだ。

その声に、さとしどころか会場全体が振り向いた。




「・・・・あれ、お前の家族?」

皆森君が聞いた。

「まぁな。」

平然と答えるさとし。

「お、お前、おばあちゃん二人いるのか?」

「あぁ、違う違う。双子なんだよ。」

「あのお婆さん、ヌイグルミ好きなのか?」

「あ、あれ?違う違う。あれ、ペットのポン太郎。」

「ペットー!?あんな生き物、見たことねぇ!」

「さとし、あの女の人モデルか?彼女?お姉さん?もしかして、お母さん!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・妹。」

「「「「「「ええ―――!?」」」」」」

「・・・・・・・・(答えたくなかったらしい」



・・・というか、高校生の試合に、家族全員、しかもペットまで連れて来るか!?

と、チームメイトは心の中でつっこんだ。




すると、3年の先輩が、


「なぁ・・・お前のおばあちゃん、もしかして・・・茶川みささんじゃないか?」

と聞いてきた。

「え?え、ええ、そうですけど・・・なんで、知っているんですか?」

「やっぱりー!!??俺、ファンなんだ!!サインしてぇ!!」

「え、え、え、え!?」





「だって、みささん、元・ミス日本だろう!?」






「・・・・な、何で知っているんですか。40年も前のことなのに。」





この先輩というのは、時代遅れで、最近シャーペンの存在を知ったくらいだ。





「なぁ茶川!その隣にいる人!テレビ出てただろう!?」

「あ、あぁ、みほばあ・・・。」

「日本有数の億万長者!!茶川会社社長!!」

「・・・まぁ、そうですよ。」

「いいなー、おしとやかできれいな人だな。」







その頃みほばあは。


「あぁ、あの金髪のお方。とっても素敵ね。あの人が、私の王子様じゃないかしら。

 わぁ、あの爽やかなお方。素敵ーvv」

本来ならさとしがサッカーをしている姿を見るために持ってきた双眼鏡を、ひったくって

イケメンあさりをしていた。



そんなみほばあを横目で見ながら、よしおはそろそろお弁当でも食べようかと思った。



そして、サンドイッチに手を伸ばした。








・・・・具がカニの足だったことは、見なかったことにしておいた。







なんだかんだ言っても、親子は親子なんだな。

横でさとしの勇姿を見て応援しているよしこと、

まき姫と「行け、そこだー!」と声を張り上げているたにこを、見比べながらしみじみ思った。






「何コレェ!?魚をパンで挟んで『サンドイッチ』って言う馬鹿が、どこにいるの!?

そりゃあまきは魚、好きだけど・・・。」

「こっちはこんにゃくだし。」

「大根だよ・・・。」

「第二のよしこね。」

「嫌、こんなばばあと一緒にしないでくれる!?」

「・・・もったいないから、ポン太郎に食べさせよう。」

「ポーン、ポポポーンポンポポン!!(いやじゃー!!わしは生ごみ処理機かー!!)」


ポン太郎の悲痛な叫びが、青空に響き渡った。







「皆、ダメじゃないか。」

みさばあは、厳しい口調で言った。

「ポン・・・(おばあさん・・・)」

ポン太郎の目が、ジワリと潤んできた。



「さとしがさっき、シュートしたんだから。」

「ポッポーン!?(そっちー!?)」

「えぇー、見てなかった!」

「もう、ポン太郎の所為だよ。」

「ポン、ポポポンポポン・・・(待て、この展開は・・・・)」
















そして、さとしの活躍で、見事灰銅学園は優勝した。


その記念パーティが、茶川家で開かれたが、





ポン太郎は一週間ほどぐったりしていた・・・・・・。







END









アトガキ
ギャグって書いてて楽しいです。
でも、他の人より文才が遥かに劣っているから・・・;;
ところで、私はみほばあやまき姫は、茶川家に住んでいるという設定なんですが、他の人たちはそうじゃないみたいです。
     深空